彼を返してください。

 この手に返してください。


 オレのもとに、返してください。




 直江。

 直江……。

 どこにいるんだ……?

 ここは暗くて、何も見えないよ。

 おまえの姿を、見つけられないよ。

 傍を離れないと、約束しただろう……?

 オレを一人にはしないと。

 決して、離れないと。


 約束しただろう……直江。





 本当は、いつも思ってた。

 もっと素直になれたらって。

 おまえに素直に、心を預けられたらって。


 いつも怖かったんだ。

 おまえを失うことが、いつの日も怖かった。

 ずっと恐れ続けてた。

 おまえがオレの傍からいなくなることだけは、何が起きてもあってはならなかったから。

 いつもおまえをオレに繋ぎとめることだけを、必死に考えてて……。

 それなのに……。


 ……おまえは、ずるい。

 オレはおまえのせいで、こんなにも弱くなってしまった。

 おまえみたいに酷い男、他に見たことない……。

 オレをこんなにして、こんなに必要にさせておいて。

 どうして。

 どうしてここにいてくれない。

 ここにいて、オレを見て。

 オレに囁いてほしい。怖いものなど何もないって。

 俺がいるから、そばにいてあなたを守るから。

 そう言って、どうしてあの微笑みでオレを包んでくれない。

 抱きしめてくれない。

 言ってくれ!

 「愛している」と。

 あなたは俺のものだと、決して誰にも渡しはしないと。

 独占欲で、がんじがらめにして、オレを離さないで、抵抗しても逃がさないほどに強く!抱きしめてくれ!

 抱いてくれ!

 おまえが抱いてくれ!

 抱いてくれ……。

 オレを、抱いていてくれ……。









 これは、夢だと。

 悪い夢だと、言ってほしい。

 そうして抱きしめてほしい。

 おまえの愛で、包んでほしい。

 

 もう、これ以上、ここにいたくない。

 ここは、あまりに哀しすぎるから。

 あんまり哀しすぎて、きっと死んでしまうから。

 早く連れ戻してくれ。

 おまえのもとに戻りたい。

 おまえのいる……現実の世界へ。






 どうして……。


 どうして、死んでしまったんだ……。


 オレを置いて、どうしてひとりで……。






 直江、早く、迎えに来てくれ。

 オレを連れて行っておくれ。

 ここはとても寒いから、夢の中で迷うオレを、連れ出しておくれ。

 目覚めたオレを、抱きしめてくれ。

 きっとオレは、子供のように、涙を流して泣いているから。

 すがりつくオレの手を、何も聞かずに握りしめていてくれ。

 おまえのぬくもりがほしい。

 おまえの熱い口づけがほしい。

 おまえのすべてがほしい。

 いま、ほしい……。

 もう、ひとりは耐えられないから……。








 目が覚めたら、今度こそ素直になるから。

 オレが、ずっと言いたかったこと、おまえに伝えるから。

 だから、約束してほしい。

 もう一度、約束してほしい。

 今度こそ、あの誓いをやぶらないで。



 オレのそばにいてくれ……。


 愛してくれなんて、言わないから。


 おまえがいてくれるなら、ただそれだけで十分だから。


 そのためなら、なんでもするから、なんだって差し出すから。


 だから……。









 二度と、オレを置いていくな……。










Mirage's ten episodes.
Part3.=sorrow=
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