Mirage's ten episodes.
Part7.=holy=
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 なおえ……。


 覚えているだろうか……。


 おまえと、オレが、初めて逢った日のことを。


 もう、ずいぶんと、昔のことだけど。



 こうしていると、なぜだか、無性にあのときのことが、甦ってきて……。






 夢にも思わなかったよ。


 自分という人間が、これほどに、誰かを愛することに、なるなんて。


 おまえを、こんなに好きになるなんて。




 初めての出逢いは、そう、春日山城だったよな……。


 お互い、本当に青かったよな。


 まだ、世の中のことなんてなんにも分かっちゃいない、青臭い少年だったよな……。



 あの時から、四百年もの月日が流れてしまっただなんて、とても信じられないよ……。









 ああ……そっか。


 さっき、見てきたんだっけ……。


 だからこんなに、覚えてるんだ。




 そう、死後に、初めて逢ったときのことも……。


 あの時、オレはあんなに誓っていたのに。


 絶対、この男にだけは、心を許しはしないと……決めていたのに。


 あのころの気持ちもまた、いまでは懐かしい思い出でしかなくなってしまった……。








 オレは、本当に、しあわせな人間だったと思うよ……。


 ひょっとしたら、世界一かもしれない。


 おまえという存在に、ただ一人、ひたすらに愛されていることが、本当はいつも自慢だった。


 伝えたことはなかったけど。


 おまえは、ただ一人の人間を、……愛し続けるという才能にかけては、きっと世界一だったとオレは思っていた。


 そんな男に、選ばれたのは、他でもない自分だった……。


 どれだけ誇らしかったか。


 どんなに、嬉しかったか……。





 けれど、人というのは不思議ないきもので。


 手に入れたと思ったら、今度は失うことの恐怖に、つぎの瞬間には囚われ始めている……。


 おまえに愛され続ける自信が、オレにはこれっぽっちもなかったんだ。


 おまえに選ばれたことすら、未だに信じられなくて。


 おまえみたいな人間に、愛してもらう価値なんて、ほんとは自分には無いことを、オレは知っていたから。


 オレの真の価値を……そのちっぽけさを知ってしまったら、きっとおまえは去ってしまうから。


 でも、おまえを失うことに耐えられなくて。


 偽りの自分で、虚勢を張って、おまえをいつまでも縛り続けていた……。


 嘘なんかで塗り固めて、長く続くわけもないのに……。


 どんなにおまえを傷つけただろう。


 オレが傷ついた分よりも、おまえが傷つけられた分の方が、はるかに大きくて。


 それが分かっていながら逃げてばかりいた自分は、最悪に醜かった……。


 それでも、オレは本当は、おまえに暴いてほしかったのかもしれない。


 オレの逃げ場さえも壊して、取り巻く嘘のすべてを壊して。


 オレの真の姿を、おまえの手で暴いてほしかった。


 そして受け入れてほしかった……。


 オレの醜ささえも、何もかも溶かして、おまえの愛で、つつんでほしかった。


 ゆるし合いたかった。


 オレの為した罪も、おまえの為した罪も。


 互いの心の底の醜ささえも、すべてさらけだして。


 そうしてなお許しあい、愛しあえるような二人に、なりたかった。


 そんな、自分勝手な理想論を、他の人間に求めるなど、愚かなことだとは思ったけれど……。


 おまえはこの地上で唯一、それを為しえる可能性を持った、奇跡のような存在だった。


 本当に神に愛されたのは、おまえのほうだったのかもしれない……。


 おまえという存在が、罪の沼に陥った一人の子を、その手で救いだしてくれた。


 そうして、受け入れてくれたんだ。


 オレのすべてを。おまえの愛で。


 おまえの全身全霊の愛が、オレの魂を絶望の淵から救い出してくれた。



 おまえはオレの、ただひとつの聖域と呼べる存在だった。



 いまもわすれていない。


 あの瞬間を。


 あの解放の瞬きを。


 霧につつまれた牢獄の中、ふたりはただ一つの生命になった。


 あの場所ですごした、ふたりの日々は、オレのなかの光で在り続けた。


 いつの日もあの聖なる時間が、オレの心の奥を灯し続けてくれていた。


 あの時もらった、おまえの言葉は、何ものにもかえがたい宝物だった……。


 おまえとの出逢いこそが、オレの生涯の、幸福へと続くすべての始まりだったんだ……。





 おまえじゃなきゃ駄目なんだ。




 他の何にも、おまえのかわりになど、なりはしなかった。




 おまえがほしかった。




 しあわせだった。





 おまえを、愛していた……。


















 な、おえ……。




 きこ、えるか……。




 オレの、こえ……まだ……。




 ああ……なみの、おとがする……。





 越後の、うみ……。





 あの海の、おとだ……。






 かえりたいな……。




 もう、いちど、ふたりで……。





 つれていって……くれ、るか……?









 うん、……やくそく……だ……。



















 ああ……。





 ここは、きれいだなぁ……。








 キラキラ、光ってる……虹色に。








 とても、きれいだ……。








 でも……あの場所……ほどじゃ、ない……。








 そこは……聖域、だから……。







 おまえの、なか……ある……たった、ひ……とつの……。













 オレ、……だけの……。




















 な、お……え……。