高耶さん……。



 また、来てしまいました……。



 あまり、来られなくて、淋しい思いをさせていませんか。



 晴家も、あなたに会いたがっていました。



 今度はきっと、三人そろって会いに来ますね。



 今はまだ、忙しくて、思うようには来られませんが。



 この仕事が終わったら、ここに住もうと思っているんです。



 そしたら、毎日きっと逢いにきます。



 どんな日でも、逢いに来ます。



 雨の日も、雪の日も。



 寒い日も、そして今日のように暖かい日も。



 あなたを見ていたいから。



 どんなあなたも見ていたいから。





 ここは、とてもいい土地ですね……。



 私達が忘れてしまった何かを、思い出させてくれる気がする。



 とても美しい場所だ……。



 たとえ、世界が滅びても。



 きっと、この場所だけは、世界の果てのその瞬間まで。



 ……美しくあり続けるに違いない。



 あなたの眠る場所だから。



 私が、あなたをまもり続けるから……。



 いつまでも、この神の御社が、常若であれるように。



 そうしてここを守ることが、私の最後の使命なのだから。





 私は永遠の衛士になる。





 あなたを護る、ただひとり残された。





 最後の護人となる。





 この聖なる神域と。



 どんな時でもそばにあり続け。



 時の流れとともに。



 たとえ誰からも忘れ去られたとしても。



 それでも私は、あなたのそばにいる。




 いつまでも、こうしてあなたの姿を見上げている。




 夏には、深緑の雄々しい葉の隙間から、木漏れ日を落とすあなたの姿を。



 秋には、枯色に染まるその葉が、静かにはらはらと落ちゆく姿を。



 冬には、剥き出しの肌を風にさらして、時には無垢の雪に埋もれるその姿を。



 そして春には、こんな風に。



 白の花を咲かせたあなたと、やさしくそばに在れたらいい。



 いつもあなたを見ていたい。



 美しい四季の移り変わりを、あなたと共に感じていたい。



 そうして。



 今日、この日だけは。



 涙を流す、私をどうか許してください。



 けれどそれは、哀しみの涙ではありません。



 私の頬を流れるのは、あの時と同じように。



 幸福と、そしてあなたへの感謝で溢れた、喜びの涙なのだから。



 あなたの根元で泣いている、そんな私を。



 一年に一度、……この日だけは許してください。



 そしてそれを何千、何万回もくり返して。



 あなたと共に、とわの道のりをつくっていく。



 ひとり、残されるのではない……。



 あなたをこの胸に抱いて、そしてさらなる最上を目指して。



 私たちは、歩いていくのだ……。



 まだ、私は満足したわけではないから。



 今ここにいる私より、さらなる高みが、きっと道の先に見つかるはず。



 そこに高みがあるかぎり。



 私達の旅路が終わることはない。



 あなたとふたり、最上を求めて、彷徨い続けていく。



 そこに幸せがあるかぎり。



 きっと、永劫に……。










 ……今度、来る時は。



 この白い花も、枯れ落ちているのでしょうけれど。



 私達には、限りない時間が残されている。



 来年、また。あなたのその微咲みを見せてください。



 待っています。




 離れていても、私はあなたのそばにいます。



 いつも、あなたと私はつながっているから。




 淋しくはありません。




 また、逢いに来ます……。





 おやすみなさい。高耶さん……。










 あなたの眠りが、安らかであればいい。



 そうして、幸福であってほしい。



 そんなあなたに、私はいつでも逢いに行く。



 私の魂をかけて、あなたに約束する。



 ……そう。



 真の誓いは、ここから始まるのだ。





 もう、二度と迷いはしないから……。











 愛していると言わせてください。





 そして限りない忠誠を。







 はるか地平無き……歴史の彼方まで。






 
Mirage's ten episodes.
Part9.=spring=
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