なあ 直江……


もしもオレたち
ふつうの生き人として この現代に生を受け
そうして いつの日か
ただの仰木高耶として
橘義明として
ふたり 出逢ったとしたら
どうなったと思う?


怨みも 嘆きも 憎悪も 執着も 何も無い
まっさらなきもちで
おまえに出逢っていたとしたら


それでもオレたちは 解りあえることなく
同じようにまた
すれちがってしまったのだろうか
ひょっとしたら 惹かれあうことすら
なかったのかもしれない


運命の相手なんて オレは信じていない
おまえがそうだとも思わない


だってそうだろう?
運命の相手だから
おまえに惹かれたわけじゃない
誰かにさだめられたから
おまえを愛したわけじゃない


たとえ
オレにとっての運命の相手が ほかにいたのだとしても
おまえを想う気持ちに かなう相手なんて
この世にいるわけがない

いま 目の前に現れたって
おまえ以上に 愛せやしない


運命なんかに すがっているわけじゃない

“オレ”が おまえを必要としている

ただ それだけだ


“オレ”ではない仰木高耶には
おまえなんて 必要じゃないかもしれない

たとえ生まれかわって
おまえとふたたび出逢ったとしても
おまえを愛することは
ないのかもしれない


それでもいい

それでも いいんだ


愛したいなんて 言わない

愛してほしいだなんて 言わない



オレがオレじゃなくなっても
おまえを欲しがる保障なんて 何もないけど
それでもオレは
おまえに惹かれてしまうんだろう
誰より 必要としてしまうんだろう

きっと そうなんだろう

理屈じゃないんだ

オレが おまえと共にある

それが あまりにもあたりまえのことだから


何度も疑った

何度も捨てようとした

それなのに
どうしてなのか この四百年間
けっして想いは消えはしなかった

いつしか
誰も信じることのなかったはずのオレが
この想いだけは
唯一 なによりも信じられるようになっていた


運命なんて信じない

永遠なんて信じない


それでも
これだけはいつだって
オレは胸をはって 信じることができたから
疑うことなどありえない たったひとつ
そう  たったひとつの……



だから

ひとりにしないでくれ

ずっと一緒にいてくれ

いつの日も おまえがなにより必要だった
おまえがほしかった
ほしくてほしくて 狂いそうなほど欲して
手に入れるだけじゃ それでもまだ足りなくて
おまえを失うのがこわくて
こわくてたまらなくて 夜もねむれず
ずっとおまえだけを 想いつづけてた

どんなに時が隔てようとも
この地上から 全存在が滅びゆく日が
おとずれたとしても

きっと変わらない

潰えはしない

想いは いつまでも この地上に残りつづける

おまえを 最後まで 想いつづける



なぁ

もしも この存在が
やがて この世界から消滅し
塵芥となり
大地に帰り
そうしていつの日か
誰の記憶からも
忘れ去られたのだとしても


おまえだけは 覚えていてくれないか
オレのことを 忘れずにずっと
覚えていてくれるだけでいい
そうして思い出してほしい
ふたりで歩んだ あの日々を
かけがえのない
おまえと生きた あの日々を



誰からも忘れられてもいい
けれど おまえの記憶からだけは
消えたくないんだ

だめだろうか

こんなこと願うのは 許されないだろうか

でも ほんとうに それだけでいいんだ

それだけで じゅうぶんなんだ




おねがいだ

おまえのなかに オレをとどめてくれ
ずっと一緒にいさせてくれ
おまえのなかで オレはいつでも生きている
どんなときも 片時もはなれず傍にいる
そうしてオレたちは
やっと ひとつになれる
おまえと共に
永遠に生きているから……





直江

直江

……こころから
おまえを あいしているよ

もう 二度と離れはしないから


だから 誓おう

ずっと伝えられなかった

四百年分の おもいをこめて