今から2年近く前。高校2年のクリスマス。
37巻「革命の鐘は鳴る」を初めて読んだ時、私は何が悲しかったかというと、第一章「約束の地」にて現れたイセの神官──直江の心を自分が理解できないことが、物凄く悲しかったんです。
 私が思う直江ならば、高耶さんが死んで、それから先の何千年もの時間をたった一人で生きていくなんて。そしてその先に幸福を感じる人生だなんて、ありえなかったから。
 そんなの直江じゃない。直江だったら高耶さんの存在しない世界に生きる意味なんてないし、直江が過去の自分に語ったように、幸福を感じることなんてないはずだと。ずっとそう思いこんでいて、それでも確かにあの時の直江はとても幸せそうで、それがどうしてなのかちっとも理解できなくて、苦しかった。
 あの時の私は、まだまだ本当に若くて、人と人の情の在り方を理解するにはあまりに未成熟で、青かったんです。
 当時の感想日記にも書きましたが、高耶さんの最期の瞬間に立ち会えず、孤独に逝かせてしまったものと思い込んで、過去の直江が絶望のあまり号泣する姿よりも……未来の直江が、高耶さんの死後、何千何万もの年月を生き抜いてきたその孤独を想像したほうが、何倍も悲しかった。
 どんなに苦しかったことだろう。どんなに涙を流したことだろう。そしてどうして、そんなにつらい思いをしてまでそれでもなお一人生き続けているのだろう……。
 理解できなくて、どうしても理解できなくて。こんな未来は絶対嫌だ。絶対認めない。お願いだから「過去の直江」がこんな結末に到達するような未来だけは、あってほしくない。絶対にあってほしくない。そう思っていました。
 けれど、たとえ本編の直江が違う未来に到達できたとしても、数多の平行世界の中に“高耶さんの存在しない世界を永久に生きる直江”が存在することも、確かだったんです。あのイセの神官のように……。
 それが悲しくてたまらなかった。所詮は平行世界じゃないかと、切り捨てることができなかった。だから思ったんです。あの未来の直江が、最期の瞬間を迎えるときに……、一分でいい。一秒でもいい、一瞬でもいい。
 どうか仰木高耶に会わせてあげてください……。
 あんなに懸命に生きたんだから、最期ぐらい、ご褒美をあげてもいいでしょう?
 神様が存在するのなら、それぐらい叶えてあげてよ。奇跡を起こしてあげてよ。
 ……それが私の宿願でした。そしてその切実な思いから生まれたのが、この小説だったんです。
 最終巻を読み終えて、私はやっと、あの時の直江の心を理解することができるようになりました。あの時語っていた「約束の時」というのが、いったい何を指していたのかも。そしてどうして幸福を感じていたのかも。
 本編の直江が、あのイセの神官と同じ未来に到達したのか、それともまったく別の未来に到達したのか、それは窺い知ることはできません。
 だから今回の小説の直江が、時空縫合によって見たあのイセの神官なのか。それとも本編の直江の未来の姿を描いているのか、もしくはまったく別の平行世界なのかも……はっきりと定めることは出来ないのです。
 「こんな未来絶対違う!原作のイメージを壊すな!」と思う人は、ひょっとしたら多くの平行世界の中にこんな結末の二人もあったのかもしれない。と考えていただけたら嬉しいです。高坂が語ったように、これから直江自身が選ぶ道によって、続く未来は千変万化していくのですから……。

 「終わりの地にて」を書き始めたきっかけは、あのOVAみなぎわの反逆者第二巻を見たことでした。
 見終わったあと、あの「赤い月事件」のシーンや直江の独白等に触発されて、私は悶々と最終巻のことについて考え込んでいました。そして眠りについた時、夢を見たんです。
 一瞬のイメージだったけれど、高耶さんが、砂漠の真ん中に立つ小さな家を訪ねて、ベッドに横になるひとりの男の傍らにひざまずく場面が、鮮明に脳裏に思い浮かびました。一瞬で、その光景があの超未来の世界を指すものだと分かりました。
 そしてガバリと飛び起きた私は、「これはもう今書かなきゃいけないんだ」と正体の分からぬ衝動に突き動かされて、パソコンのキーをとり憑かれたように叩き始めました。
 そして苦しみもがきながらどうにか生み出したのが、この小説です。
 本当は全然納得いっていません。もっともっと表現したいことはあるはずなのに、ちっともできなくて文才の無さに涙が出ました。
 それに、本来なら37巻と40巻を読み返してから書くべきだったんです。そうすればもっと納得のいくものが書けたのでしょうが、まだまだ原作を読み返すことができるまでには私の心は回復していないのです。
 それでもこうやって文章にできるようになったのですから、ずいぶん傷も薄れてきたのでしょうね。一時期はあのふたりの名を呼ぶだけでも涙が出て、毎日毎日欠かさず泣いていましたが。あの日から半年を経て、私も少しは成長できたということでしょうか。(痛みに鈍感になっただけかもしれないけど)
 いつか読み返せる日が来たら、その時はもう一度書き直したいと思います。

 さて、長くなりましたが、いかがでしたか。「終わりの地にて」。
 究極のハッピーエンドを目指して書きました。これを読んで少しでも幸せを感じていただけたら嬉しいです。
 何か思うところがございましたら是非ご感想をくださいませ。一言だけでもいいです。この話を読まれて皆さんがどのように感じられたのか知りたいです。よろしくお願いします。

2004*10*10
 
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