to be continued…
2002/10/11
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藤ちゃんを忘れているアホ直江(怒)。
この話を書いた頃は、まだ外道丸様は出ていなかったので、
藤ちゃんにまさかあんな結末が待っているとは思わず……(泣)。

そして髪がうまく結べず四苦八苦する直江。
昨夜の高耶さんを思い出してムフフとなる直江。
アホや……、中3の頃の私は何を考えてたんや……。

さあ、これからの景虎様&晴家ちゃんによる直江イジメが楽しみですね〜♪
負けるな直江!この400年間を乗り越えれば
天国が待っている!(←長すぎっ)
2.

直江はそれきり口を閉ざし、暫らく放心したように黙り込んでいた。

景虎は直江の様子を傍らで見つめ続けた。
思案にくれているらしい直江の目を覗き込む。本来人の心情を読むことを得意とする景虎だったが、今の直江からは何も読み取ることができなかった。
直江が取り乱した理由は未だ分からなかったが、何故か目の前のこの男にわけを問うことができない。
一体どうしたというのか。ただ、俯いてなお光る男の眼光が、景虎の知る直江のものとは全く異なる物のように感じられるのだ。
だが、この男は間違いなく直江信綱だ。根拠など何もありはしないが、それだけは確信できる。
何故かこの男のことを間違えるわけが無いという自信が、景虎にはあった。

──何故なのか……。

「他の者はどうしましたか」

景虎が疑問を感じたと同時に、今まで黙り込んでいた直江が口を開いた。

「他の……?」
「他の……夜叉の、上杉の仲間はどうしていますか」

ああ……。夜叉という言葉で景虎は気づく。

「勝長殿はまだ琵琶島へ行ったままだ。晴家は藤と共に食料を調達に行っている。……もう間もなく帰ってくるだろう」

藤……という名の者は分からないが、(何か記憶の底に引っかかる物があるが……)やはり長秀はまだ夜叉衆に入っていないらしい。……藤≠ェ長秀ということはないはずだ。

景虎は今度こそ直江に問いかける。

「なお……」
「顔色が良くないようですね。寒くはありませんか」

問いかけは直江の珍しく誠意の込もった声に阻まれた。

「日が暮れてきたようですから、何か羽織ってください。……私の服は……」

そう言って視線をまわし、枕元に畳んである己の羽織を掴んで景虎の肩に掛けようとしたが、景虎は驚いてその手を拒んだ。

「景虎様……?」
「……動けるようなら着衣を整えて起きろ」

そう言って立ち上がり、直江から逃げるかのように床間から退室した。




着替えを済ませ、手水で顔を洗った直江は、水の冷たさに眉を顰めて頬に張り付いた髪を掻きあげた。
手櫛で髪を梳き、麻紐で結い上げるが、なかなか上手くいかない。
いかなかつては毎日やっていたこととはいえ、近代となってからは短い髪が当たり前であった直江だ。百年も前の己の習慣を、ましてや換生で換わってしまった身体で再現することは難しい。

(鏡がほしいな……)

物品の無い時代を不便に思いながら、直江は何とか髪を結い上げ、一つ吐息をついて改めて室内を見回す。
部屋数は三つの、狭くてみすぼらしいあばら家である。
景虎は先程出て行ってしまったらしく、今この家にいるのは直江だけだ。

(これからどうするか……)

先程見た景虎の様子を思い出す。
どうやら自分は、テレビドラマや小説でよくある、時を越える≠ニいう体験をしているらしい。

(……よりにもよってこの時代なのか)

御館の乱から五年ということは、初めての換生からはおそらく半年やそこらであろう。
景虎が自分に、御館の折の敵として憎悪の念を抱いていた頃だ。
自分の過去とはいえ、四百年前のことだ。明確には思い出せないが、心を開かぬ景虎と接するのはひどく困難なことだった。

(どう接すればいい)

先程の景虎の驚き様を見て気づいたが、景虎が直江に心を開いていないと同じく、この頃の自分とて、今直江が高耶に接するようにはしていない。
直江がいつも当たり前のように高耶に与えるぬくもりも、この時の景虎にとっては当たり前ではない。……どころか、青天の霹靂である。
だからと言って冷たく接することなど……できない。

けれど、四十年前ではなかっただけありがたかった。あの頃の景虎と会って、平静でいられるような自信など無い。目を瞑るわけにはいかないが、できれば触れたくない過去というものが、人間にはあるのだ。
……分かっている。忘れることなどできない。景虎は、たとえ心情的には加害者だったにせよ、実際には被害者だったからこそ忘れることができた。

(だが……俺は違う)

……忘れることなど……許されない。
もう一度、美奈子に会うことなど……。

直江は気づいて自嘲の笑みを浮かべる。

「それよりも、どうしてこんなことになったのか考えるべきだろう……?」

夢ではないだろう。ここまで意識が明確なのだ。夢によく見られる、つじつまの合わない曖昧なところも無い。
と言って、安易に現実≠ニ認めるわけにもいかぬのだ。何者かによって意識操縦され、幻を見せられているということも考えられる。……今のところ、それに該当するような《力》の気配は感じられないが、油断はできない。

だが……もしこれが現実の出来事だったら……。
直江は顎に手をあてて、真剣に考え込んだ。
俗に言う「タイムスリップ」という現象は、例えば落雷に撃たれるとかいう凄まじい衝撃の副作用であるとか、自ら時を飛ぶことを強く望むことによって発生する奇跡=c…などというのが直江が知る最もポピュラーな原因だ。
あくまで小説などの世界の話ではあるが……。

前者はどうだろうか。昨日はそう際立って変わったことも無かった。
外部の怨将の動きも無く、四国大転換後、赤鯨衆上層部に不満を持ち始めた一平卒隊士達の間にも、何らかの動きは見られず、普段と変わりない日常的な一日だった。(この状況を日常≠ニ呼べるかどうかは、甚だ疑問ではあるが……)

高耶は……。

高耶こそ、裏四国成就からは日常的などと口が裂けても言えない毎日だが、昨日に限って特に目に留まることは何も無い。
そう、昨夜も高耶と一緒だったのだ。その時もいつもと同じだった。俺の腕の中で……。
普通なら目が覚めればすぐに、高耶の姿が目に映るはずだった。
万民を魅了するその瞳が閉ざされ、四国遍路達に畏れ敬われる《今空海》ではなく、二十一歳のあどけなさが残る安らかな寝顔。
あの日を境に高耶は以前のようなかざり気の無い笑顔を浮かべることはなくなってしまった。いつでも張り詰めに詰めた緊張を全身に纏い、何かに追われるような余裕の無さを常に内包していた。
それでも、そうやって自分のぬくもりを感じながら眠る高耶は、その時だけはひどく、安らかな表情をしているのだ。

愛しい……獣。

あの人はどうしているのだろう。
高耶のことが気になる。向こうの世界は今どうなっているのか。もし本当に自分は時を越えているのだとしたら、今こうやって時が流れるのと同時に向こうでも時が流れているのかもしれない。
今の自分の意識が四百年前の自分≠フ身体に宿っていることから推測して、おそらく橘義明の身体は向こうに変わらずあり、意識だけが時を越えているという可能性が高い。
……だとしたら、目を覚ました高耶は傍らで意識を戻さない自分を見て、どう思うだろうか……。

「高耶さん……っ」

当ても無い想像ばかりが広がる。
とにかく一刻も早くもとの世界に戻らなくてはならない。だが、そのために必要な手がかりが何一つしてないのだ……。

(とりあえずは様子を見るしかないのか……?)

直江はきつく唇を噛みしめた。
for your and my eternal happiness.

Someday, I will pray to the meteor