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to be continued…
2002/10/23
はい、第三章となって過去編に戻りました。
にしても調伏シーンって、書いてて凄く楽しいです♪
しかしパソコンのフォントにバイ≠フ文字は無かった……。ちっ。
ところで皆さん、調伏の真言はちゃんと言えますか?
私はバッチリです★それと言うのも、
中学時代によく、部活の時間に友人と
「《調伏》ごっこ」ををやってたからなのですっ!(笑)
《光包調伏》、《裂炸調伏》、《結界調伏》真言を唱えまくったのも良き思ひ出……。
しかも《結界調伏》は1巻と12巻と19巻と外道丸様の4パターン
完璧に暗唱できます!これぞマニアの境地!(笑)
すっごいかっこいいんですよね、台詞が。
特に「我ら六道の夜叉なり」あたりがもうッ!
ああ、でも原作では二度と《結界調伏》は見られないのかなぁ…(泣)。

後ですね、晴家ちゃんの呼び方ですが、
これを書いた後に連載された外道丸様では、
直江は既に「晴家」と呼んでるんですね…!
何があって柿崎から転向したんだろう。謎です。
それほど親しくなったようにも見えないし……。

ところで直江の二重人格説。
思わず26巻の、
「橘義明は出て行きました。ここにいるのは、ただの直江信綱です」
……という台詞を思い出しました(笑)。
第三章 「流星に祈る」


8.


あの日から三週間が過ぎた。
直江はあの日の翌日から、景虎達と共に怨霊調伏を行っていった。
まだ安静にするようにと藤に止められたが、首を激しく動かすことがなければ大丈夫だと言って、聞きはしなかった。

直江は流石に四百年以上調伏を続けてきただけあって、景虎達よりも卒なく怨霊たちを浄化させていく。
そんな直江に、景虎、晴家、藤は不信感を持ちつつあった。

以前の直江は、こんな男だっただろうか……?

何が違うのかと言うと、まず物腰し。
その人間の持つ雰囲気が違う。かといって全く違うというわけでもないのだ。
直江が持つ、ピンと冴えた冬の月のような緊張感は依然として変わらない。
だがその内側に燻っている、何か≠ェ今の直江には強く現れている。それが直江をまるで違う人間であるかのように感じさせるのだ。
そして何よりも、自分たちに接する態度がまるで違うのだ。
以前は晴家が何かと突っかかっていくと、直江も負けじと嫌味を返し、晴家が怒ってあわや乱闘……ということもしばしばだったのだが、晴家がいくらつっかかっていこうと、直江はあまり反応しなくなった。開き直ったというわけではなく、晴家のことをまるで手のかかる弟のような眼で見ているのだ。

用がない限り進んで会話に加わることもなかったのに、わりと頻繁に話しかけてくるようにもなった。晴家にも、景虎にも……。
この間など、直江はいつも晴家のことを姓で呼ぶはずなのに、突然「晴家」と呼んだせいで、「馴れ馴れしいっ」と罵られていた。
だが直江はからかって言ったという風でもなく、怒鳴りつけられたことを別段怒りもしなかった。

景虎に対しては……直江はいつも、何かもの言いたげな視線で景虎を見つめていた。
訝しく思って問いかけてみても、直江はただ、少しつらそうに眼を細めて、「何でもありません」と首を横に振るだけであった……。


    * * * * * * * * * * 


「はあぁぁッ!」

襲い狂う怨霊たちに、護身波で身を護りつつ念波を撃ち放つ!
一瞬は怯んだものの、なおも立ち向かってくる怨霊の群れに景虎は舌打ちした。

(説得する間もないな)

横っ飛びに敵の攻撃を交わして、何とか外縛のタイミングを窺っていたところ、激しく繰り広げられる攻防のさなか、景虎が踏み出した足場がいきなりズルッと崩れた。

「うわっ!」

雪が溶けて土壌が崩れやすくなっていたらしい。
幸いそう段差はなく、景虎は地面に転がって体勢を立て直そうとした。その隙をついて怨霊の群れが襲いかかってくるが、何とか立ち上がりざま体勢を整え念波で薙ぐ。
しかし背後から来た霊には間に合わない!

「景虎様!」

そこへ侍の出で立ちをした男が現れ、念で霊を薙ぎ払い、新たな加勢に怯んだ怨霊たちにすかさず外縛をかける。

「“”!」

その瞬間死霊の群れは動きをピタリと止めて、けたたましい苦悶の叫びを上げた。

アアアアアァァァァ───ッ!!!

「のうまくさまんだ ぼだなん ばいしらまんだや そわか!」

悲鳴と怒号の嵐の中、男は朗々とした声で真言を言い放つ!

「南無刀八毘沙門天、悪鬼征伐、我に御力与えたまえ!──《調伏》ッ!」

男から凄まじい光芒が噴き出され、死人達はその光に急速に飲み込まれながら、呆気なくも昇天していった。
男は光と衝撃音の残骸の余韻にひたることもなく、すぐさま景虎に駆け寄り、片膝着いて動かずにいる己の主君を助け起こす。

「大丈夫ですか、景虎様」

景虎は無言のまま立ち上がり、どこにも支障がないことを確かめると、短く「ああ」と答えた。
先日足の捻挫が完治したばかりなのに、またどこかに怪我を負うのはさすがに遠慮しておきたかった。
直江は景虎の無事を確認すると、おもむろに景虎に手を伸ばし、何をするかと思えばなんと──彼の着物についた埃を手の平でパンパンッと払い始めたのだ。

「なっなにす……っ」

一見どうということはない構図だが、相手は直江だ。
景虎は怒るとか何とかする以前に唖然としてしまい、直江の手を払いのけることもできなかった。
埃を払い終わって手を離した直江を、ようやっと気を取り戻した景虎は思いっきりキッと睨み上げた。

「何をするのだ!」

それは当たり前の反応ではある。相手が直江でなくとも、大の大人が男に、しかも己の部下にこんな子供のような扱いをされて怒らない方がおかしい。
だが直江は、別段気にした風もなく景虎を見つめ、

「もう日が暮れてきました。今日はこれできりあげて、宿に戻りましょう」

そう言って踵を返し、ニ、三歩歩いたところで景虎を振り返った。

「景虎様……」

その声を聞いて景虎はビクリとした。直江の声が何か、言いようもない優しげな響きを持っていたからだ。
直江は別に微笑んでもいない。この無表情さだけは相変わらずだ。なのにどうして、この男はこんな声を出すのだろう。……いや、出すようになったのか。
景虎は何も言わず俯き、土手の道を歩き始めた。直江もその後ろをついて歩み始める。
景虎は小屋に着くまで決して後ろを振り向かなかった。振り向かずに気配で直江を探っていた。
気配だけでも、直江がまた「あの視線」を向けていることが、手に取るように分かる。

直江の変化で、何よりも皆が驚いたのは、直江が景虎に対し其処此処で触れてくるようになったことだ。
本人は無意識にやっていることらしく、あまりのその自然な動作に、まるで直江が長年の己の臣であるかのように錯覚してしまうこともあった。
始めのうちはその都度怒って罵詈雑言を浴びせかけたものだったが、本人は別にからかっているわけではないようであるし、景虎がいくら発破をかけるようなことを言っても、以前のように憎しみを込めた眼で睨み返すようなことはしなくなり、かわりに何かひどく苦しげな、遠い眼をするようになったのだ。

その真意の解らぬ眼を向けられると、わけもなく何も言う気が無くなってしまう。
そしてまたあの瞳で見つめられることを避けるために、このごろは直江が何かしら触れてきても、振り払いはするが悪言をぶつけることは無くなってしまった。


直江の異変の原因は何なのだろう。
確かに直江は、初めての換生の後に出逢ったときに比べ、多少なりとも変わったとは思う。
だが今の直江は、変わったどころか全くの別人格に近い。
別人なら悩みもしないのだが、景虎にも晴家にも、「九郎左衛門」の宿体に以前と同じ直江信綱の霊魂が入っていることは、容易に確認できた。
そこで景虎が出した結論は、「二重人格」説だ。
もっとも景虎も晴家も藤も、二重人格の者など実際に見たことはない。裏表で態度が著しく違う人間なら山と知っているが、それは二重人格とは言わないだろう。
この説は今のところかなり有力な意見であった。人柄がまるで違うが同一人物…ということは、二重人格者だと思うのが一番適当である。

もちろん景虎は、そのことを直江に対し、それとなくどころか正面切って尋問したのだが、答えは当然「否」であった。
直江にしてみれば、あまりに唐突な質問だ。景虎に「裏表が激しい」と言われたことは実際あるが、まさかこんな質問を受ける日が来ようとは、夢にも思わなかった。
それは景虎に対し(高耶に対し)、全てを隠すことなくさらけ出そうとする、直江の心意気が思わせることだった。
景虎から尋ねられたことにより少なからず不快感を覚えはしたが、今の彼にそんなことを思っても仕方が無い。
そこで肯定しておいた方が景虎達の不信感を消すには良かったのかもしれないが、二重人格だなどと言おうものなら景虎から何を言われるか分かったものではないので、素直に首を振ったのだった。

景虎も直江のことなど出来ればそう考えたくもないので、本人は無自覚なのかもしれないと、勝手に結論付けた。
それにしてもこれほどまでに変わるものだろうか。第一、直江信綱が生前二重人格者だったなどという噂はついぞ聞いたことがない。(他の噂は聞いたが…)それとも人前では出なかっただけだとか……。でもそれならなぜ、今現在は堂々と人前にああやって出ているのか。
やはりつじつまが合わないような気がする。
それに景虎は「二重人格」という構造がいまいち分からない。人格が二つあるというのなら、二つはまったく別個のものなのか。一方が出ている間、もう一方はどうしているのだろう。表に出ている人格を見ているのだろうか……それとも眠っている?前者だとしたら、二つの人格同士で会話をすることも可能かもしれない。
どちらにしろ直江が「知らぬ、分からぬ」と言っている以上、真相は分かるはずもない。
直江にわけを聞きだそうとしても、いくら景虎が問い詰めようと口を割りはしなかった。(もちろんただ問いかけるだけでなく、いつものように毒舌を吐き倒したのは言うまでもない)
ただ、人の秘め事を見抜くことにかけてはそれなりに自信がある景虎だ。直江が何か隠し事をしているのは間違いない。
おそらく直江は己が異変の原因を知っている。だが誰かに後ろめたいとか、そういった類のものではなく、何かに追いつめられた獣のような焦りが、その月のように冴えた彼の横顔に感じられた。
そしてあの視線の意味はなんなのか……?
とにかくこのまま流されるままでいてはいけない。二重人格だろうと欠陥人間だろうと、あの男にベタベタと触られて不快極まりないことに間違いはないのだ……。

そう、男にひっつかれて嬉しいわけがあるか。ましてやあの直江だ。
鳥肌など遠に越して反吐が出る。
確かにあの男は、「オレ」を救った命の恩人だ。だが、だからと言って馴れ馴れしくして良いなどと誰が言った?
あの男は何を勘違いしているのか。あの一件でオレが自分に心を許したとでも思っているのか。
これから何年、いや何十年と月日は流れ、やがて恨みは消えていくのかもしれない。
時と共に憎しみは薄れていって、景勝方への憎悪も、全く消失する日が、やがては訪れるのかもしれない。
──だがあの男と和解する日は来はしない。
あの男ほど存在自体が気に障る人間も珍しかった。何故だか無性に癇に障る。もちろん理由はあるのだが、それらを抜きにしても気になって仕方がない。
多分そういった星巡りなのだろう、あの男とオレは。
この、果ての無いかとも思われる道の終着点に、あの男との別れが待っているのかと思うと、早く終わらせたいものだと思う。


景虎は気づかない……。
景虎は、己が本当に軽蔑する人間に興味を向けない。
気になるということは、直江が「直江」であるがゆえだ。……それが必ずしも悪い感情であるとは限らない。

その意味を景虎が本当に気づくのは、もう少し後の話となる……。
for your and my eternal happiness.

Someday, I will pray to the meteor