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to be continued…
2002/10/29
次回、いよいよ最終話です。

それにしても納多氏、何とコメントして良いのか分かりません……。(沈没)
……と言うことで、「答えは〜」で予告いたしましたとおり、
……載せてみました。
よくぞ初めて書いた小説にそんなシーンを入れた。中坊の私。
それによーく覚えています。この場面、普通に学校の教室で書いてたことを。
教師もまさか生徒が授業中エロ(もどき)書いてるなどと、想像もつかないことだろう。
なんとチャレンジ精神旺盛なことか。
その意欲に拍手を贈りたい。
けれど意欲は認めるが、あまりにもアレで恥ずかしい……。
しかし展開的に削除するわけにもいかず……(泣)。
ああ……穴があったら入りたいとは、まさにこのことなのか!

そして高耶さんの魂核異常……。
いつか治る日が来ることを、切に切に信じています……。

18.

どれだけの間そうしていたことか。
いつしか止め処もなかった涙は収まり、高耶はやがて平静を取り戻していた。穏やかな感情に包まれながら、直江の腕の中に抱かれている。
窓から吹き込む風が、少し肌寒い……。

「どうしてだ……」

高耶が小さくつぶやいた。

「どうして……」

それは何のことに対して問うた言葉なのか。……けれど直江には、それだけで高耶の意を読むことができた。
室内に光はない。けれど、こうして抱きしめ合っていれば互いの存在を確かめることはできる。
直江は静かに口を開いた。

「夢を……見ていました」

夢……と高耶が呟く。
直江は少し遠い目をしながら、

「ええ……そこで大切な人と会ってきたんです」

と言った。
それを聞いて高耶は、和らいでいた表情を硬くした。
首を動かして直江と、至近距離で見つめ合った。
相手の吐息がかかるほどに近い。
直江は高耶の反応を見て、苦笑した。

「誰だか……分かりますか」

高耶はしばし黙って、短く答えた。

「知らない」

低い言葉に、直江は穏やかに微笑んで、腕の中にある高耶を真剣な瞳で見つめた。

「初めて換生した時のこと、覚えていますか……?」

高耶は虚を突かれたような顔をした。まるで予想外の質問をされて、すぐには反応できなかったようだ。

「いや……あまり」
「その時のあなたに会ってきたんですよ」

え……っ、と高耶が眼を瞠る。

「初めて換生した時のあなたに……。景虎様に会ってきたんです」

直江は上体を起こして、高耶の身体を膝に乗せるようにしてベッドに座り直した。

「初換生の、オレに……?」
「ええ……」

高耶は少し考えて、当惑した顔で尋ねた。

「それで……オレは何か言ってたか」

直江は微笑み、こう告げた。

「それは秘密です」

高耶が眉を寄せる。

「どうして」
「願い事は……、人に言うと叶わなくなると言いますから。あの人と私だけの秘密です」
「オレはのけ者か」
「ええ、そうです」
「オレは景虎本人だろう」
「それでも駄目です」

高耶はとたん、冷ややかな眼をした。

「……何も話さない気か」
「いいえ……」

高耶を真摯な眼で見つめ返す。こんな瞳で高耶を見られる人間は、直江以外にいなかった。

「思い出してほしい……」

真剣な声で紡がれた言葉を、高耶は理解できずに首を横に振った。
直江は景虎との別れ際に、ある暗示を施した。
記憶を封じる暗示だ。景虎が橘の直江と過ごした二十三日間の記憶を、ある制約を以って封じ込めた。

二人の願いが叶えられた時、流星への祈りが果たされた時に暗示は解け、記憶の糸は紐解かれると……。

(あなたの傍に、永遠に、共に在れること……)
「いずれ……解ります」
(絶対に叶う日が訪れるのだと……、俺は信じているから……)
「いつかあなたが、思い出してくれるのだと、私は信じているから……。その日が訪れるまで、何も聞かないでいてください」

お願いします……。
直江の真摯な双眸に見つめられ、高耶は何も言えなくなった。

(直江……)
「分かった……」

高耶は直江の手を握りしめながら答えた。

「おまえが言いたくないのなら……何も聞かない」

直江が瞳を揺らした。

「おまえがおまえの心に、嘘をついてないことが分かるから。それならそれでいい……」
「高耶さん……」

高耶に対し誤魔化しなど効きはしない。だからこそ、直江はどんな時でも渾身の誠意を以って相手に対さなければならない。

「けれど……約束してほしい」

高耶は俯き、瞳を閉じた。

「もう二度と……こんな思いはさせるな……」

消え入りそうな声で言った。

「おまえを失うのなんて、一度だけで十分だ……」

直江は目を見開いた。
高耶の拳はふるえていた。耐えられない……というように、高耶は顔を俯かせる。

(高耶さん……)

直江は愕然とした思いで彼の前髪を見つめていた。
自分は、今まで景虎とずっと共にいた。けれど、高耶は……。
高耶は自分が向こうにいる間、その間ずっと意識の戻らぬ自分を見つめていたのか……。
待ち続ていたのか。己の元へ戻ることを信じて……。

「もう……、おまえと逢うことは、二度とないのかもしれないと、そう思っていた」

高耶は、まるで独り言を言うかのように、小さな声で呟く。

「おまえが必ず戻ってくると、どうしても信じることができなくて……。宿体の命が絶えると共に、おまえがまたあの時のように消えてしまうんじゃないかって……」

今でもまざまざと甦る。あの、最悪の瞬間。
思い出すだけでも激しい嘔吐感と割れるような頭痛が押し寄せてくる。
高耶にとって、あの瞬間から宿体の死と新たな換生とはイコールの関係で結びつくものでは無くなっていた。
おそらく、これから先例え何度繰り返そうとも、直江が宿る肉体の死を平静で迎えることなど、二度と出来はしないだろう。
それだけ、あの萩での直江の死は、高耶の魂に一生癒すことのできない傷を負わせたのだ。

「気が狂いそうだった……」

高耶は瞳を閉じた。
硬く硬く、必死で何かをこらえるかのように……。
直江は耐えられず、高耶を抱きしめる力をよりいっそう強めた。
今更ながらに、自分のしでかしたことの重大さを理解できた気がする。

「すみませんでした……ッ」

つらかった……。高耶にこんな思いをさせた自分が憎くてしょうがなかった。
他の人間がもし高耶にこんな思いをさせたなら、自分は迷わずその人間を呪い殺しているだろう。
それなのに……、それをやった本人が自分とは。自分が許せない……。このまま腹を裂いて自殺してしまいたい……。
そんな直江の苦しみが伝わったのか。高耶は顔を上げて直江の青ざめた頬を両手で包み込んだ。
二人はそのまま見つめ合う。二人の他、それ以外に何も存在しないかというように……。

「良かった……」

高耶は呟く。これ以上無いほどに愛しさを溢れさせた声で……。

「おまえは、ここにいるんだな……」

オレの傍にいるんだな……。
直江は目を瞑り、誓うように言葉を紡ぐ。

「ええ……」

声はかすれていた。

「ここだけが、あなたの隣りだけが。私の生きる場所だ……」

あなただけに誓う。
他でもない、ただ一人のあなたに。
これは願いなんかじゃない。
願いなんかじゃなく、祈りなどでもなく。
誓うのだ……。決してたがえることはないと。

(直江……)

高耶は引き寄せられるように唇に口づけた。
触れ合わせるだけの、誓いの口づけだというように。
柔らかい唇の感触が離れていく寂しさに耐えながら、高耶はそっと顔を離す。
直江は為されるがままに高耶を見つめている。
直江の吐息を肌で感じながら、高耶は直江の耳元に唇を寄せて、囁きを落とした。

「抱いてくれ……」

直江が目を瞠った。

「おまえを感じたい」

熱く、短い囁きだった。けれどそれだけで十分だ。二人の間に言葉などいらない。
直江は静かに高耶の身体をベッドに横たえて、覆いかぶさるようにまたがった。
優しくゆっくりと、ついばむようなキスを最初は繰り返し、だんだんと深く激しく、歯列を舐り、舌を互いに絡み合わせる甘いキスへと変わっていく。

「ん……ふっ……」

だんだんと呼吸が苦しくなってきたところで、やっと解放されて、苦しげに息を整えながらも高耶は名残惜しげに直江の首へ腕を回した。
耳朶に舌を這わせながら、高耶の上着のボタンを外していき、むかれて露になった白い首筋に静かに唇を落として、確かめるように赤い刻印を残していく。
シャツを脱がされて一瞬肌寒さを覚えた高耶は、直江の肌の熱さを感じたくて、直江の身を包む白装束の襟へと指を掛けた。

「寒いんですか?」
「ん……」

短い肯定の呟きに、直江は少し微笑んで、耳元に低い声で囁いた。

「じきに熱くなりますよ……」

そう言って高耶の脇腹を優しく撫で上げていく

「……っ……」

男の長い指は、高耶の上半身をゆっくりと、まるで壊れ物を扱うかのように愛撫を施していった。
ここ一年近く、直江にこんな風に優しく抱かれたことはなかった高耶は、こんなにも愛に溢れた男の行為がとても嬉しくて、胸を熱くさせた。
まるで、初めて抱き合った夜のようだった。
繋がりあいたいという欲求は、肉欲だけじゃなくて、その人をひたすらに愛したいという純粋な想いのみで成立しうるということを、四百年生きて初めて知った夜のように……。
この男とこうして抱き合えることこそが、何にも勝る奇跡だった。

しかしいつまでも決定的な刺激をよこさないことに耐えられなくなり、胸元を探る指を右手で捕まえて、己の下半身の自身に直江の手を押し付けた。

「高耶さん……」

少し驚いた顔で直江は呟いたが、高耶は何も言わずに首を左右に振って、潤んだ瞳で直江を見上げた。
そんな高耶を見つめているうちに、己の体も熱くなるのを感じて、迷うことなく高耶のズボンのチャックを引き下ろした。
既に上半身の愛撫で興奮した体は、高耶の自身にも熱が行き届いている。
高耶は催促するように腿を直江の腰に押し付けて、小さく熱を持った声でつぶやいた。

「早……くっ……」

直江は高耶のソレに下着の上から指で撫で上げた。途端高耶は与えられた刺激に反応して、体を僅かにシーツの上でねじらせる。
そのままグルーミングするかのように愛撫を与え続け、徐々に成長していくソレをやんわりと握りしめた。

「あっ……く……ッ」

突然の強い刺激に声を上げたが、高耶は危うく語尾をかみ殺した。

「抑えないで。誰に聞かれたって構わないから……」

口元に覆われた手を外させて、声を出すようにと高耶にせがむ。
だがもともと高耶にも、声を押さえる余裕などありはしなかった。先程の動作は条件反射のようなものだ。今は誰に聞かれたって構いはしない……。
直江は先程よりも早い動作で高耶の自身を再び扱き始めた。激しい愛撫に翻弄されて、だたでさえ飢えきっていた肉体は直江の指の感触に過敏に反応し、一気に絶頂まで昇りつめる。

「あぁ……もっ……出っ……ッ」

一瞬で視界がホワイトアウトする。
高耶は欲望のままに男の手の平に精を吐き出した。
大きく背をのけぞらせて、シーツの上に高耶は崩れ落ちる。
ずっと希い続けていた、直江から与えられる官能の余韻に息を弾ませながら、しばしの間幸福感に胸を詰まらせて、その感覚に高耶は酔いしれた。
直江は手の平の精を舐めとり、両目を覆っている高耶の左手を外させようと、高耶の手に指を触れた時……。

「……高耶さん?」

ふと、高耶の様子がおかしいことに気づいた。
顔色がひどく悪く、先程の射精とは関係のない様子で、何か呼吸が苦しそうなのだ。

「高耶さん、具合が悪いのではないですか……っ」

直江の焦る声に、高耶は自覚がないといった風に「そんなことはない」と、顔から手を離して首を振った。

「いえ、顔色が悪い。私の看病をしたせいで疲労が出てしまったんでしょう。申し訳ありません、気づくことができなくて……」

高耶のことだ。自分があんな状態になってしまって、ろくに休息など取れるわけがない。そんなことは簡単に予想できたはずなのに……。
肉体に負担のかかる行為を高耶に施してしまったことを直江は後悔した。

「私の体はもうなんともありませんので、あなたはこのままここで休んでください」

高耶は驚いて上半身を起こそうとした。だが起きる途中、得体の知れない激痛が胸を駈け走り、顔を歪めて再びシーツに倒れこんだ。

「高耶さん……ッ!?」

驚いて高耶に取りすがる。だが高耶は手で直江を制し、

「……何でもない。少し……眩暈がしただけだ……」

と言って胸を押さえた。

「気にするほどじゃない……そんな、ヤワじゃねぇよ……」
「高耶さん……っ」
「大丈夫だ……」

高耶はそう言いながら、なおも苦しげに胸を強く押さえ込む。

(何だ……?この痛みは……っ)

先程までの、直江に対する想いから引き起こされた胸の苦しみで今まで気づかずにいたが、明らかに今、自分の体が変調をきたしていることを明確に認識する。
言葉には形容し難い痛みであった。まるで体内に腕を突き刺されて、臓腑を鷲掴みにされたかのような疼痛。
今まで一度として感じたことのない得体の知れない痛みに、高耶は戦慄した。

(まさか……っ)

脳裏に瞬時に浮かび上がったのは、一年前に目の前の男から告げられた衝撃の事実。

── 魂核異常……。

高耶は自分の考えに愕然とした。
この痛みは……まさか……まさか……っ!

「高耶さん……。中川を呼んできます。すぐ戻りますので、ここでじっとしていてください」

直江は、「なんともない」という言葉とは裏腹な高耶の様子を見て、やはり医師の診断が必要だと判断した。
そして高耶から手を放し、ベッドから片足を降ろした時。

「待てッ!」

いきなり高耶が直江の腕を掴み、真っ青な顔で訴えかけてきた。

「……行くなっ……オレを置いて行くなっ。離れないでくれ……」

高耶のあまりの必死の形相に、直江は動けなくなった。
思いきり強く歯を噛みしめて、高耶は激しい痛みに耐えたが、小刻みに震える手を抑えることはできなかった。

「……しかしっ」
「お願いだ……」

刻一刻と近づく恐怖に押し潰されそうになりながら、哀願するように直江の腕に縋りつく。
震える手で高耶は、直江の腰に手を回した。

「こんなオレを放っとくっていうのかよ……」

そう言って、ぎこちない笑みを作り、直江の下腹部に手を滑らせた。

「高耶……さん……」
「続きを……」

静かにそう呟くと、背中に両手を回して、高耶は直江を自分に覆いかぶせるようにして、抱きしめた。

(あたたかい……)

直江の体温。二十三日の間感じることのできなかったその感覚。
やがてその熱と共に、あれほど激しかった胸の疼痛が徐々に鎮まっていくのを高耶は感じた。
この熱がたまらなく愛しい。
人肌のぬくもりが、泣くほど嬉しい。



痛みを消してくれ。
おまえの熱い体に嬲られて、貫かれて。
揺らされて、犯されて……。
オレを求めて求めて、激しく組み敷いてほしい。
おまえに抱かれれば、
激痛でさえ快感に変わる……。





(たとえこれが、終わりを告げる警鐘なのだとしても……)


おまえに抱かれていれば、
怖いものなど何もないのだから……。




日の没した部屋の中で、二つの影は闇に溶け込むように、
次第に一つに重なっていった。
空には果てなく暗雲が立ち込めて、
まるで二人の道を照らすまいとするかのように、
月が姿を見せることは、決してなかった……。




── おまえがいるから、
           すべての道は開かれる……。
for your and my eternal happiness.

Someday, I will pray to the meteor