完結編 歯列を舐るような甘苦しい口付けに高耶は息をあげ、それでもなお深く貪りつこうと両手で直江の髪をつかんだその時、 パシャッ。 耳元で突然発された機械音に驚いて、高耶と直江は口付けを中断して横を振り向くと、同時にギョッとした。 二人の目と鼻の先に、カメラを構えた潮がいつの間にか近づいていたのだ。 ベッドの上でもつれ合う二人と、それをファインダー越しに至近距離で覗き込む潮の図は、はたから見ればかなり異様であった。 どうやら潮は催眠暗示に掛かってるくせに、興奮のあまり思わず近づきすぎてしまったらしい。 今の今まで、すっかり潮の存在を忘れてしまっていた高耶と直江である。 間近でフラッシュをたかれたせいで、目がチカチカとしていた。それにしたって、そんなに近くで撮ってはせっかくのキスシーンもピンボケしてしまうだろうに。 「武藤……」 高耶はベッドから起き上がって潮の名を呼んだ。 せっかく高まったムードも、シャッター一押しですっかり崩壊してしまった。 「もうこれくらいでいい、武藤。ありがとうな。それじゃあ今から現像してきてくれ。出来たら明日の朝にオレの部屋に届けてほしい、いいな？」 潮は高耶の言葉にコクコクと頷き、無言のまま立ち上がって室内から出て行った。 「暗示は解いたんですか？」 「いや、無事写真が完成してオレの手元に渡るまでは解けない」 「……なんだか、本当に根回しがいいというか……」 だんだん潮が哀れに思えてきた直江であった。 「あ、勘違いするなよ。別にオレは無理矢理暗示かけたわけじゃない。ちゃんと武藤に許可を取って協力してもらってる。いくらなんでも催眠暗示程度で、換生者をあそこまで操ることは出来ないさ」 「……」 そうは言っても、高耶の「許可を取る」は、「半ば強制」と同義語である。潮が高耶の計画に快く賛同して、甘んじて暗示を受けたとはとても思えなかった。きっと有無を言わせぬ態度で潮に迫ったのだろう。 それにしても、ここまでしなければならないほどに、高耶は自分の写真を撮りたかったのだろうか。 「どうして……そこまでして私の写真を取りたいんですか」 ふいに直江は真摯な口調になって高耶に問いかけた。 とは言っても、直江はとっくに高耶の真意を察し始めていた。 今日の午前に会ったときの高耶のあの冷淡な態度を、自分はそのままの意味で受け取ってしまい、日中はずっと悶々と過ごしてきたのだが、どうやらあれは感情を押し隠すために設けた、たんなる偽装であったようだ。 その感情とは、先ほど高耶が垣間見せた、欲情に滾ったあの瞳に一番顕著に現れているだろう。 高耶は何か良い言い訳が無いかと暫しの間逡巡したが、開きかけた唇を一度噛んで、観念したように目を瞑って下を向いた。 「だって……な。オレ、おまえの学生時代なんて、写真でも見せてもらったこと無かったから。おまえの実家にも一度も行ったことないし」 高耶の答えは素直だった。実際のものは見ることが適わなかったから、代わりに今こうして若返った直江に制服を着せて、カメラに収めようとしたらしい。 「そんなの……今度いくらだって見せてあげますよ。それこそ高校時代と言わず、小学校から大学まで」 「今度って、いつのことだよ……。おまえの写真なんて、実家に行かなきゃ無いだろう。無理だ……」 悲しげに高耶は呟いた。今のような状況で、橘義明の家族に顔を合わせることなど出来ないのだ。 「いいえ。そんなことないですよ……高耶さん」 直江は体を屈めて、下から覗き込むようにしてうつむく高耶を見つめた。 「この戦いが終わって……もう少し落ち着いたら、きっと二人で私の実家に行きましょう。出来れば春がいい。光厳寺の境内は、桜の名所として地元でも有名ですから。桜が満開の時に、二人で宇都宮を訪ねるんです」 直江はにっこりと少年らしい微笑を浮かべて言った。その表情に高耶はドキリと鼓動を高鳴らせる。直江の瞳はキラキラと輝いていて、まるで本当に少年時代に戻ってしまったかのようであった。 「そしたら、私の家族に会ってくださいね。“私の一番大切な人です”って、あなたを皆に紹介するんです。今まで散々親不孝してきましたから、今度こそあの人たちを安心させて差し上げないと」 それは夢のような話であった。現実味の無い、現実とは程遠い届くことの無い夢……。 直江がそれを承知で言っていることを分かっていたから、高耶もそれを否定はせずに、夢見るように呟いた。 「……そうだな。オレも会いたいな」 「ええ。その後は、松本にも行きましょうね。あなたのお父さんに私を紹介してください。そうしたら私が言いますから、“息子さんを私にください”って」 高耶は小さく微笑した。 「それを言うなら“娘さんを僕にください”だろ」 「一度言ってみたかったんですよ、この台詞」 「おまえ親父に殴られるかも。“おまえなんぞにウチの息子はやらん！”って」 「そしたら、手に手を取って二人で駆け落ちしましょうね」 二人は顔を見合わせて笑いあった。そしてどちらともなく顔を寄せ合い、唇を重ねた。 短い口付けを終えて高耶は、息が触れ合うような近さに顔をとどめて囁く。 「……本当に、むかつくぐらい似合うな、その格好」 「そうですか？ありがとうございます」 直江は眩しい笑顔を高耶へと向けた。 そういえば、直江の学ラン姿は随分と前にも何度か見たことがある。昔は大学でも学生服を着たのだから。 その時もやはり、キリリと学生服を着こなした直江を見て、ひどく似合っていると思ったのだ。 なんにせよ今も昔もこの男は、不必要なほど男前だった覚えがある。高耶は改めて直江の、いっそ冷たく感じるほど整った顔を眺めた。 「でも……おまえ高校ん時もかなりモテただろ。こんなんじゃ女がほっとくわけないもんな」 高耶は直江の頬をゆっくりと撫でた。その顔はなんとなく不機嫌そうである。 直江は苦笑して、高耶の背中に腕を回す。 「そんなことありませんよ」 「嘘つけ。どうせおまえの知らねぇところでファンクラブとか結成されたりしててさ、キャーキャー言われてバレンタインチョコとか山のようにもらってたんだろ」 直江は困ったような顔をした。否定しない、ということは、やっぱりその通りだったのだろう。高耶はおもしろくないものを感じながらも、一つ息を吐いて苦笑した。 「オレさ、おまえの高校時代ってもっとこう……なんて言うか、変に大人じみてて全然学生らしくない、妙なやつだったんだろうなぁ……って思ってたんだけどさ」 「……あながち外れてないと思いますが」 「いやっ、全然。………カッコイイよ」 高耶は照れくさそうに微笑みながら、小さな声でそう告げた。 「高耶さん……」 「本当に、朝最初に見たとき、思わず押し倒しそうになった」 「私は別に押し倒されても構いませんでしたが？」 「……嶺次郎や兵頭が見てる前でできるかよ」 「いいじゃないですか、見せつけてやれば」 「そういう訳にもいかねぇだろ」 二人は互いに抱きしめあいながら声を上げて笑った。そして高耶が直江の肩に顔を埋める。 直江の肩は以前よりも少し薄かった。少年らしい、しなやかでやわらかい成長途中の身体。 自分がまだ、直江のことも、自分のことさえ何も知らなかった時、直江はこの身体で確かに生きていたのだ。 自分のことをただひたすらに求めながら。既に浄化してこの世にはいないのではないかという不安を、胸の内に抱えて、狂いそうな深い闇の中を這いずり回るようにして。 本当に、何物にも代えがたい、愛惜しい歴史を確かに刻み続けてきた身体。 「直江……」 沸き起こる衝動を抑えることなく、高耶は直江の身体にきつく抱きついた。 直江もそれに応えて抱きしめる力を強め、高耶のつややかな黒髪に優しく口付けた。 「愛しています……」 いつもの囁きを口にすると、不意に高耶が少し驚いた顔をした。 そうした一瞬後、高耶はハッとするほど綺麗な微笑を浮かべた。 「もう一度……言ってくれないか」 高耶はそうかすれた声で囁くと、静かに瞳を閉じた。 「おまえの声、いつもより少し高くて……不思議な感じする……」 「高耶さん……」 「もう一度……」 直江は少年の顔に、これ以上ないくらいにやさしい微笑を浮かべて、高耶の乞いに応じた。 「愛していますよ……」 どんな時も、どこにいても、どんな姿でも。あなたがあなたであるかぎり……。 ─オレも……。 高耶は心の中で呟く。 本当は年齢とか、外見とか、全然関係ないんだ。 いまおまえが、オレのそばにいること。それが一番大切なのだから。 どんな姿でも、愛しい直江……。 いつもそうやって、心の中で思うだけで口に出して伝えないオレは、卑怯だろうか。 けれど、おまえには分かっているんだろう？ オレがどんなに、おまえのことばかり考えているのかなんて、何百年も前からずっと……気付いていたんだろう？ 言葉にしなくても伝わる想いなら、それはきっと。どんなものよりも確かなものだから……。 高耶は言葉には表しがたい、溢れるほどの想いのたけを込めて、直江の髪に、額に、頬に、そして唇に口付けた。 そうしてどちらからともなく白いベッドに崩れ落ち、狂おしい衝動を抑えることなく互いに求め合い、夜の闇に溶けていった。 その夜高耶は、再び夢を見た。 辺りは見渡す限りの白。白。白。その中に一つだけ、黄金の光を放つ物体が、高耶の真正面にポツリと佇んでいた。 《どうじゃった。わしの力は》 昨夜の夢に現れた、あの神狐だ。神狐が再び高耶の夢に現れたのだった。 「ああ、……予想以上だったよ。あんたの力、疑ったりしてすまなかったな」 《なに、気にすることはない。それよりどうじゃ、願いのほうは、あれで満足じゃったか》 高耶は一瞬黙って、頬を紅潮させてから視線を神狐から逸らした。 「まあな、結構……ヨカッタぜ……」 《嘘をつくな、結構どころじゃないじゃろ。おんし、あんなにヨロコんじょったくせに》 「うっせーよ。……ってあんた、覗いてやがったのか！」 《わしも上手くいったか気になっての。それにしてもおんし、あの様子じゃよっぽど飢えてたんじゃのぅ》 「てっめぇ、神狐のくせに下世話なこと言ってんじゃねぇよ！」 いったいどんな場面を覗いてたと言うのか。一度は神狐に感謝もした高耶だが、その瞬間に撤回した。 《残念じゃが、夢のような一夜もこれで終わりじゃ。朝には術が解けて元に戻っちょる》 「あ、てめぇ話はぐらかすんじゃねぇ。いったいどっからどこまで見やがったんだ」 《……》 「おい、なんで無言なんだ。もしかして最初から最後のメインディッシュまで全部とか言うなよ」 《……まあ、倦怠期になったらまた呼べ。いつでも力になれるよう努力しちゃるきに》 「んなもんなんねーよ。あいつホント上手いから……って違う！ちゃんと答えろよっ。さては全部見やがったなーッ！おいコラ消えるなぁぁーーーー！」 高耶の叫びも虚しく、前回と同じく神狐はまばゆい光の粒子に包まれて、はるか彼方へと姿をくらました。 「くっそぉぉ。あんのボケギツネェェーーーーーーーーッッ！」 「ハッ」 ガバッ。 高耶は目が覚めた瞬間、大仰な音を立ててシーツから身を起こした。 （クソッ。見たなら見たで、見物料ぐらいはらっていけっ） ギリギリと唇を噛みしめながら、心の中で恨めしげにそう吐き捨てる。 なにしろ昨夜の情事は、いつもとは違う感覚に興奮して、今思い出してもなかなかにスゴイことをイロイロとやってしまったのだ。 （ちょっと……調子に乗りすぎたかな……） その結果は先ほど起き上がった際に走った、局部の鋭い痛みが如実に物語っている。 これほどつらくなるまでやったのは、本当に久方ぶりだ。 それにしても、少し起きるのが早かったようだ。窓の外は未だ日の光も無く、夜の闇に包まれている。 高耶がだるい腰をさすっていると、先ほどの物音で気が付いたらしく、直江がゆっくりとまぶたを開いていた。 「高耶……さん」 呼ばれて振り返った高耶は、ハッとして目を見開いた。 （戻ってる……） 昨夜までの涼しげで清潔そうな、少し少女めいた感さえあった直江の顔が、成人男子特有の男らしく渋みのある顔立ちとなっていた。 先ほどの夢で神狐が言っていた通り、直江はもとの31歳の橘義明に戻っていたのである。 「高耶さん、おはようございます」 直江がシーツから起き上がってそう言うと、不意に直江が驚いたような顔をして喉もとを押さえた。 「高耶さん……ひょっとして、私の身体元に戻ってます？」 喉を押さえた動作から察するに、直江は声の変化に気付いたらしい。 「ああ、いつものおまえに戻ってるよ」 「そうですか……ああ、良かった。もう元に戻らないんじゃないかって少し不安だったので」 直江が心底ほっとしたように息を吐いた。 「そうか……？オレはもうちょっとそのままでいて欲しかったけどな……」 本当なら、自分の服とか、ブレザーとか、ジャージとか、もっといろんな服を着せてみたかったのである。 あれだけの美形なら、女装だってやらせてみれば似合ったかもしれない。 いかにも残念といった感じに溜息を着く高耶に、直江が怪訝そうな顔をした。 「ひょっとして、高耶さん。私がああなった原因に心当たりがあるんじゃないですか……？」 鋭い発言である。流石は直江、伊達に四百年も後見人などしてはいない。 「どうしてそう思う？」 「だって、あなたの反応があまりにも、余裕があるように見えるから……」 それは、そうかもしれない。もし何も原因が分からずに、直江が昨日のように若返ってしまったら、自分はまず喜ぶというよりは錯乱するだろう。 「そんなことねーよ。それにいいじゃねぇか、ちゃんとこうして戻れたんだから」 高耶は口元に笑みをのせながら、直江の髪を梳いた。昨夜までは目の前にあった直江の髪が、今朝は少し高い位置にある。 「それは……そうなんですけどね」 まだ少し不可解そうに眉を寄せていたが、高耶のいつにないやさしい態度に気を良くしたようだ。 この男もけっこう単純である。 暫くそうして触れ合っていたが、何しろまだ夜明け前である。高耶は眠気が甦ってきたので再び眠りにつくことにして、ベッドの上にコテンと転がった。 その幼い動作を見ながら、直江は苦笑した。 「それじゃあ、私はシャワーを浴びてきます」 ベッドから降りて直江は着替えを手に持った。ふと視線を走らせると、椅子の背に掛かった黒いTシャツと黒いパンツが目に止まる。 「その服、いったいどうしたんだ？おまえのじゃないだろう」 高耶も気になっていたらしく、直江にそう尋ねてきた。 「それが、分からないんです。昨日の朝机の上に知らぬ間に置いてあったので……」 とすると、これは神狐がくれたものなんだろうか。状況から見て、そう推測するのが一番無難だろう。 （直江が着てた服か……） パンツは言わずもがな、Tシャツも身体にぴったりとフィットするタイプのデザインだから、元の身長に戻ってしまった直江には到底着られないだろう。 「なあ、直江……。その服、オレにくれないか」 「……どうして？」 直江が不思議そうな顔をする。 「いや、だってもうおまえには小さくて着られないだろうから、オレが着ようかなと思って。ほら、捨てるのはもったいないだろう？」 高耶が慌てたように言い訳した。わずかに染まった頬が、本当の理由を顕著に表している。 無論、直江がそれを察せられないわけも無い。 直江は柔らかく微笑し、 「いいですよ。でも私なんかのお古でよろしいんですか？」 と高耶に尋ねる。 「いや、いいよ。別に」 高耶は曖昧な口調で返事をしながらも、心の中では喜びの舞を躍っていた。 直江には高耶の心中が手に取るように分かってしまう。 そんな高耶を愛おしく感じて、直江はよりいっそうあたたかい微笑を口元にのぼらせた。 目の前の素直な高耶も、昨夜の大胆な高耶も、本当になによりも愛しい……。 「それにしても……昨夜のあなたは随分とサービス精神旺盛でしたね」 「そうだったか？」 直江が思い出したように言った言葉に、高耶は内心赤くなりつつもポーカーフェイスを装う。 「ええ、仰木先生の授業は丁寧で積極的で、とても良かったですよ」 「橘君はとっても教え甲斐の無い生徒だったよ」 「何故ですか？」 「そりゃあ、オレより経験豊富な生徒に何教えろって言うんだよ」 「それじゃあマグロになってた方が良かったですか？」 「そうだよ。そしたらオレが一から料理してやったのにな、残念だったな」 直江がたまらず吹き出した。高耶はそれを見てムッと顔をしかめる。 「何がおかしい」 「いえ……。なんだかいつもと全然態度が違うなって思って」 「そうか？」 「ええ。あなた実は、年下趣味だったんですか？」 「はぁっ？」 高耶は思いっきり目を丸くした。いきなり何を言い出すのかと思えば……。 この男は、『黄泉への風穴』の綾子ねーさんの迷台詞を知らないのだろうか。（曰く年上の男に弱い） 「まったく……くだらねぇこと言ってないでサッサとシャワー浴びて来い」 高耶はそう言うと布団の中に包った。まだ時間があるからもう少し眠っていてもいいだろう。 「一緒に入りませんか？」 「結構だ」 それは残念ですね、と笑いながら直江はベッドに近寄ると、片膝をベッドに乗り上げて高耶の唇に一つキスを落とした。 唇が離れた後、暫しの間二人の視線が交錯し合う。 「直江……」 「それじゃあ今度こそシャワーを浴びてきます」 そう言って直江は身を引き、踵を返して高耶に背を向けた。 高耶は離れていく直江の背を見つめている。掛ける声も無くじっと。 そして直江がシャワールームのドアノブに手を触れた時だった。 「直江」 直江が高耶を振り返る。鳶色の二つの瞳がこちらを見つめている。 高耶は真摯な声で、直江を見つめ返しながら言った。 「やっぱり、オレ、昨日の年下のおまえより、今のほうが好きだ」 直江が目を見開いた。高耶は小さく微笑しながら言葉を紡ぐ。 「だって今のおまえには、オレと共に歩み続けてきた多くの証が、その身体に刻まれているから……」 そう言って、直江の胸に残る引き攣れた銃痕を、愛しげに見つめた。昨夜の彼の身体には、それは存在しないものであった。 自分を護って負った傷跡、彼の命を奪った、何よりも憎いその傷跡さえ、自分と直江の歴史を標す証となるならば、それはいっそ哀しいほどに愛惜しく感じる……。 「オレは、今のおまえが一番いい……」 「高耶さん……」 直江が手に持っていた衣服を床に落として、高耶の元へ駆け寄った。 そして高耶の身体を軽々とすくい上げると、深く、熱い口付けをその唇におとす。 やがて執拗な唇から開放され、荒い息で胸元にすがりつく高耶の耳元に、直江は熱を持った声で囁いた。 「やっぱり、一緒に入りましょう」 高耶は顔を上げて直江の顔を仰ぎ見た。 目の前には、昨夜とは違う、高耶と共に“今”を歩む直江の瞳がそこにある。 「いいでしょう……？」 直江の、あたたかい微笑。 高耶はその口元に苦笑をのせて、観念したように言った。 「しょうがねぇな……」 高耶が直江の首に両腕を巻きつけると、直江は再び高耶にキスをして、踵を返すと足早にシャワールームへと歩を進ませた。 〜終わり〜