To Be Continued......
 高耶さん、まんまと直江の思惑にはまってしまったようです(笑)。
 このお話の高耶さんは生活の環境のせいか、生真面目で世間知らずなようですね。むろん胸のうちに熱いものを持っていますが、……それは後々。
 対する直江はこの時点ではまだ、純粋にただ高耶さんの笛の音に惹かれていると、そういうことなんですが……「名残惜しげに振り返りつつ」って、どう見ても恋ですよね……おかしいな。……にしても直江、台詞のクサさをいまさら気にしても遅いよ。
 あえてまた断るまでも無いと思われますが、「時代考証」の四文字を考えてはいけません(笑)。脳内消去してください。笛についても、どうにも資料が少ないのでかなり適当に創作しています。実情に詳しい方は読まれない方が良いです。(o゚-゚o)ノ
ハーイ
 にしても横笛を吹く高耶さんはいいですね!無条件に素敵です。私の下手な描写でさえ美しく思えます。最近笛のことばかり調べたり考えたりしているので、実物の音が聴きたくてしょうがありません。歌舞伎か長唄でも見に行こうか。
 ときおり神社とか、寺などでコンサートが催されているので、そういうのに行ってみるのもいいかもしれません。いままであまり興味はなかったけど、こういうことを機会に趣味が広がるのはいいことですね。
 なーんて二十代になったことを意識してちょっと落ち着いたことを言ってみましたが、お着物の高耶さんモエーv(←本性)早く直高ラブが書きたいけど、このお話はくっつきそうでくっつかないってのがテーマだから、しばらく歯がゆい思いが続きそうです!(苦)
 嗚呼それにしても明日はいよいよ赤の神紋第十一章発売日だ〜っ!! 
2005*5*31
web拍手
......Back......Home......Next......
  第二話


 篠笛北条流家元、北条氏康次男、北条氏照の葬儀は、その翌々日宗家の邸にて慎ましやかに行われた。
 聞いた話では、氏照はもとより生まれつき内臓に疾患があって、幼い頃は発作を起こし倒れることもしばしばだったらしい。
 それがここ数年は発作が起こることも無く、壮健であったために周りの者も油断をしていたのだろう。突然の発作の再発による不幸に、驚き嘆く知人達も多いようだ。
 葬儀には直江の両親も参列した。やはり近所ということもあって、両家の間に多少の親交はあったらしい。
 直江も他人事とは思えず、共に参列しようかと思ったが、氏照本人と何の面識もない自分が軽々しく参列するのは気が引けたし、彼≠ェ気を悪くするのではないかとも思い、断念したのだった。
 葬儀の後しばらく、北条の邸は嘘のように静まり返っていた。
 忌中の間は楽曲の演奏は控えるべきである。ただ、民法の規定どおり一ヶ月以上もの間、喪に服しているわけにもいかない。頃合いを見て、ほどなく笛の稽古も再開されることだろう。

 不謹慎極まりない話だが、直江は喪の明ける日を、今か今かと待ち侘びていたのだった。
 連日落ち着かなげな様子の直江に、「待ち人、来たらずか?」などと、仕事の同僚の色部がからかい混じりに尋ねた、その日の夕べ。
 会社帰りのあの道で、暗闇の中、直江はついにあのか細く不安定な笛の音を、その耳にすることができたのである。
 はやる気持ちを抑えて、山茶花の垣を過ぎ裏門に歩み寄ると、暗い色調の着物に身を包んだかの少年が、笛を口元に構え、息を吹き込む様が見て取れた。
 数瞬の間、その様子を無言で眺め見る。
 まるで一幅の絵画のようだと思った。闇夜の中のその光景は、まるでそこだけ切り取られた空間のようで。
 無粋な声をかけて、この少年が今かたちづくる世界を壊してしまうことが、あたかも大罪のように感じられる。
 直江は曲が終わるまで、声もなくその場に佇み、しばしその美しい音色に心を委ねていた。

 一曲を吹き終えたのか。音色の結びと共にそれまで固く閉ざされていた瞼がたわんで、睫毛の揺れと共に、少年の暗褐色の瞳が薄く覗いた。 
 魅入られたように立ち呆けていた直江であったが、それに気づき、彼を驚かせないようになるべく小さな声で、ようやくその名を呼びかけたのだった。

「高耶さん」

 呼びかけと共に高耶は口元から篠笛を離し、目線をこちらに流した。
 視線が合うと、彼は驚いたように心持ち瞳を開き、袖を振って直江の方にゆっくりと歩み寄る。

「本当に来たのか」

 カラコロと下駄を鳴らしながらそばに近づいた彼は、意外そうに言ったのだった。
 口約束はしたものの、実際聴きに来るとは思っていなかったらしい。

「もちろんです。毎日ここを歩きながら、あなたの笛の音を探していました」

 先程の感動の延長で、思わず熱をこめて返した直江の言葉に、高耶はポカンと口元を開き、間の抜けた表情になった。
 その反応に、「今のはさすがにクサすぎたか」と、自らの言動を反省しつつ、なにげない口調で言葉を続ける。

「こんばんは、高耶さん。お元気そうでなによりです」
「え……あぁ、こんばんは」
「このたびは、大変ご愁傷様でした。お悔やみ申し上げます。……お稽古の方は、再開されたんですね?」
「……うん。形式的にはまだ忌中だけど、笛の家でさすがにそうも言ってられないからな……」

 兄のことを思い出すと、まだつらいのだろう。眉根を淋しげにひそめながら、高耶は淡々とした口調で告げた。
 彼がここまで心を寄せていた、北条氏照とはどのような人物だったのだろう。もはや叶わぬことながら、生前に一度で良いから本人に会ってみたかったと、直江は思ったのだった。
 竹で作られた裏門に手をかけ、直江は改まった口調で高耶に言った。

「せっかくこうしてまた会えたんですから、笛の音を、聴かせていただけませんか。山茶花の垣根から漏れ聴こえる音も素敵ですが、あなたの吹くすぐそばで一度、聴いてみたいんです」

 それを楽しみに、ここ数日の間彼に会える日を待ち侘びていたのだから、至極当然な直江の頼みであったが、高耶は困ったような表情をして、「それはできない」と首を横に振った。
 「どうして」と、慌てて聞き返す直江に、彼は指で母屋を指しながら、

「ここじゃ、母屋の方に聞こえてしまう。さっきもいつ奥様が聞きつけて来るかと、気が気じゃなかった。いつもは離れの自分の部屋で、布団かぶりながら吹いてるんだ。……でもそれだと直江さんが来た時、分からないだろうと思って」

 今日は特別に、あの日と同じ場所で吹いていてくれたらしい。
 けれどこれ以上続けていては家の者を起こしてしまうかもしれないと、申し訳なさそうに言う彼に、「それなら」と、直江は一つ提案した。

「私の家に、来ていただけませんか?」

 え?と、高耶が首を傾げた。会って二回目の相手に、ずいぶん思い切ったことを言うものだと自分でも呆れたが、構わず直江はそのまま言葉を続けた。

「家に、来ていただきたいんです。私の部屋は離れですから周りを気にする必要はありませんし、もし母屋の方に聞こえてもどうせ義父は夜遅くまで仲間の方々と騒いでいるに違いありませんから」

 突然の提案に、高耶は目を白黒させた。

「今から?……でも、夜間の外出は、禁止されているし」

 家の決まりを、律儀に守っているらしい。この年頃の少年にしては、いまどき珍しい品行方正さだ。まぁもっとも、直江の誘いを断るための言い訳にそう言っただけなのかもしれないが。

「そこまで笛が聴きたいなら、習いに来ればいい。直江家の人間なら、たぶん喜んで教えてくださるはずだし」

 高耶がそう勧めたのは、全くの善意からだろうが、直江が意図するのはそういうことではない。
 しかしここで「あなたの笛が聴きたいのだ」と、念を押したりすればいらぬ警戒心を抱かれる恐れがある。それは直江の本意ではない。
 自分はただ、純粋に彼の笛の音をもっと聴きたいと、そう思っているだけなのだから。

「できればそうしてみたいのですが……本格的にやりたいというわけではありませんし。多少、興味があるという程度の話ですから」

 そう言って、話のとっかかりを作ってみる。無論、習いたいなどとは今の今まで一度も考えたことはなかったのだが。

「そんなこと気にすることない。最初から師範になろうと思って来る人なんてそうそういないし、自分の続けられる進度で習いに来ればいいから」
「でも、いきなり宗家のほうで師事というのは……」

 意味ありげに、目配せをしてみる。何しろ周りが暗いので、彼がそれを正確に読み取れたかどうかは分からないが。
 そのまま黙り込んで、様子を窺うように高耶を見つめた。そんな直江を見ながら、彼は少し考え込むように手を口元に当てると、意を決したように顔を上げる。

「……なら、オレが教えようか?」

 直江の誘導に従って、意図通りの言葉を発した彼の申し出に、直江は嬉々として飛びついた。

「え?いいんですか?」
「あぁ、オレも人に教えたことはないけど、基本的なことぐらいなら指導できるし。自己流で初めに変な癖をつけるとよくないから……」

 入門程度の指導なら、自分が引き受けてもいいと、高耶は親切そうに申し出る。
 見たところ、その場のノリで嫌々言っているわけでもないようだ。

「あなたさえよければ、ぜひお願いしたいです。ご指導いただけますか?高耶さん」
「こっちこそ……直江さんが嫌でなければオレは全然構わないけど」

 色よい返事に、直江は嬉しそうに微笑んだ。
 とんとん拍子に話があまりに上手くいきすぎて、言い出した本人が一番信じられないくらいだ。

「それではよろしくお願いします。いつが都合がいいでしょうかね。私は仕事があるので、平日は時間が作れないのですが……高耶さんは日曜はお暇ですか?」
「日曜は、午前中は稽古があるけど、午後からなら……」
「ああ、それなら日曜の午後にということで。お給金のことも考えなければいけませんね」

 嬉々として話を進め始めた直江に、途端高耶は「とんでもない」と、首を横に振った。

「給金なんて、そんなの受け取れない。オレまだ名取でさえないし、大したこと教えられるわけでもないのにそんなことしたら、家元にどれだけ叱られるかっ」

 生真面目にも彼は、「無償で良いのだ」と直江の申し出を断る。

「けれど、それでは私の気が済みませんし……あなたの演奏代も兼ねて、受け取ってはいただけませんか?」

 それでもなお高耶は首を振る。存外意固地な性格なようだ。
 しかし彼の言い分を聞くわけにもいかないだろう。見たところ学生のようだが、貴重な休日の時間を割いてもらうのだから、社会人のこちらとしては相応の報酬を払う必要がある。
 直江はしばし悩んだ末、妥協策を提案した。

「それでしたら……お給金の代わりに、夕飯をごちそうするというのはどうでしょう。何もしないというのはあまりに気が引けますから。それぐらいのことはさせてください」

 その提案に、確かに直江の言うことにも理があると思い、高耶は「そういうことなら……」と遠慮がちにうなずいたのだった。
 直江の方もほっとして息をついた。まさか無償で教えを乞うわけにもいかない。夕飯が報酬というのはいささか安価すぎる気もしたが……彼の笛にはそれだけの価値があると、直江は思っているので。
 初夏の夜長、虫の音のこぼれる邸の庭で、月の光に照らされた二つの影がのびている。
 その後、こまごまとしたうち合わせを交し合い、初めての指導は今週の日曜、二時からに決定した。迎えに行くと申し出たが、「それはぐあいが悪いから」と、かたくなに断られた。

「笛の方は……私の方であらかじめ用意しておいた方がよろしいですか?」
「いや。篠笛は種類が様々で、素人の人が知識なしに自分で買うのは難しいから、とりあえずはオレが適当な物を持っていくよ」
「そうなんですか。わざわざ、ありがとうございます」
「うん。初めてならたぶん、七笨調子あたりがいいだろうな。その他の楽譜とかもこっちで用意するから」

 笛のことは正直よく分からないので、直江は彼の助言に従うことにした。
 それにしてもこれでいよいよ、彼の吹く笛を真正面から、思う存分聴きいることができるのかと思うと、直江は顔を綻ばせずにはいられなかった。

「それでは、今週の日曜に。家の前でお待ちしていますね」
「あぁ、うん。遅れないよう気をつける」

 最後にそう言い交わして、直江は名残惜しげに振り返りつつ、山茶花の垣根沿いの小路を、はずむ気持ちを抑えながら歩いていったのだった。

 何か未知なる世界が広がるような、そんな気がした夏の夜だった……。
高山流水
篠笛悲恋物語